トヨトミのポット式石油ファンヒーターの基幹特許を解読してみる

石油ファンヒーターの選び方を調査していたら、まさかここまで調べることになるとは。

そもそものきっかけは、石油ファンヒーターはどこのメーカーのを選べばいいのかを判断する重要なポイントである燃焼方式の違いを調査したところから始まっている。ダイニチのブンゼン気化式、コロナの油圧送霧化式、そしてトヨトミのポンプ式の3種類のことである。

ブンゼン気化式は、要はガスコンロと同じことをやっていて、油圧送霧化式は、灯油をガス化させるのにブンゼン気化式のように電熱ヒーターを使い続けなくてよいように工夫したもの、ポンプ式は灯油をポタポタ垂らしたものを直接ヒーターで燃やす原理的には一番単純な構造、というところまでは理解できたのだが、寒冷地用の煙突付きストーブの主力方式である元来のポンプ式と、それを石油ファンヒーターに唯一転用することができたトヨトミのポンプ式の何が違うのかについて、詳しく調べた資料はネット上では見つからなかった。そもそもポンプ式自体の説明をあまり多く見かけないのである。

そこで、「灯油ポタポタを直接燃やす」程度のポンプ式の説明では到底納得出来ない私は、トヨトミのポット式石油ファンヒーターに関する特許文献を直接調べ、解読することで、そもそものポット式の特徴や長所と短所、石油ストーブで使われている従来のポット式と、トヨトミ石油ファンヒーターのポット式の違いを、納得行くまで調べようと思った次第である。


トヨトミの石油ファンヒーターに関するそれらしい特許を一つ一つ見ていったところ、どうも基幹技術となっている特許は下記のようだ。特許庁のページだと個別の特許ページのURLを持っていないようなので、下記で代用する。
ポット式石油燃焼器の構造
青炎燃焼器に関する補足として下記も紹介しておく。
青炎ポット式石油燃焼器

見てもらえばわかるが、数字と専門用語だらけで、門外漢にはさっぱりわからない。私が日本語文書なのにわざわざ「解読」と書いた理由もお分かりいただけるだろう。ただ、従来技術やその課題と解決についても記載があるようなので、この文書が解読できればポット式という燃焼方式について理解する当初の目的は達成できそうだ。


まずは、用語の説明から。この文書を理解するにあたって、絶対に理解しなければならないのが、一次空気と二次空気、一次燃焼と二次燃焼、予混合燃焼と拡散燃焼という3組の概念である。何が1で何が2なんだ、と私も含めた一般人は思うわけであるが、これは、基本となるブンゼン式ガスバーナー、つまりはガスコンロの燃焼の原理を抑えると容易に理解できるのではないかと思う。

下記のサイトの画像を元に説明をすることにしよう。
ガスこんろ(がすこんろ)とは - コトバンク
まず、ガスはそれだけで燃えることができないのはご存じの方も多いだろう。ものが燃えるためには酸素、つまりは空気が必要なのだ。この空気をガスに供給するタイミングが2つ存在するのである。一つはガスを燃やす前、もう一つはガスを燃やすときだ。

上記の画像のブンゼン式ガスバーナーは、ノズルからガスが出るタイミングで、その噴出の勢いを使って、管の隙間から適切な量の空気を取り込んでいる。この空気を一次空気と呼ぶのである。ここでガスと一次空気による混合気体が作られることにより、火を付ければいつでも燃焼できる状態が出来上がったわけである。この状態で燃やすのが予混合燃焼。予めガスと空気を混合して燃焼させるから予混合燃焼というわけだ。

では予め空気を混ぜずに燃やそうとするとどうなるのか。こうなる。
(画像は「ブンゼンバーナー - Wikipedia」より)
上記の画像の例で言うと、一番右の4番が一次空気を取り込んで混合気を作って予混合燃焼をしている状態。一番左の1番は、一次空気を取り込まずに燃えている状態だ。この2つを理科の実験で見たことのある人も多いだろう。

では一番左のはどこから空気を取り込んで燃えているのかというと、ろうそくや焚き火などと同様、燃えるときに外から空気を取り込んでいるのである。これが拡散燃焼。ガスが外に拡散する際に外の空気と混ざって燃焼するから拡散燃焼。そしてこの拡散燃焼時に外から取り込む空気が二次空気である。往々にしてこの燃え方は、空気の量が足りなくなるので不完全燃焼が起きやすく、炎の温度も低い。

じゃあこのままだと部屋の中に不完全燃焼による有害物質がたくさん充満してしまうね、ということで、それを減らすために再度空気を入れて燃やすのが二次燃焼という方法だ。二度燃やして有害物質を減らしているわけだ。

以上、ここまでをまとめると下記の通り。
一次空気:燃焼前の段階で予めガスに混ぜておく空気
二次空気:燃焼時にガスと混ざる空気
予混合燃焼:燃焼前に混合気を作って燃えること
拡散燃焼:燃焼時にガスが拡散しながら空気と混ざって燃えること
一次燃焼:いわゆる普通の燃焼。最初の燃焼
二次燃焼:一度燃焼させた燃焼ガスに、再度空気を供給して燃やすこと。不完全燃焼による有害物質を減らすことができる


これがわかれば、特許資料を読み込むのに必要な武器の貯蔵は十分なはずなので、満を持して読み込んでいくことにしよう。

まずは従来のポット式、ポット式ストーブはどういうものだったのかということについて。この特許資料を読むに、元来のポット式は拡散燃焼による黄色い炎を上げて燃えるもののようである。たしかに、よくよく考えれば、このポット式のやっていることって、昔の行灯みたいに、油皿に火を付けて、もわもわ黄色い火が立ち上っている状態とあまり変わらないわけだから、そうなるだろうね。

で、従来のポット式の課題としては、不完全燃焼が起きやすい黄色い火の拡散燃焼になるので、すすなどの有害物質が発生しやすくて、煙突が必要になると。たしかに、調べた限り小型のストーブはみんな芯式ストーブで、このポット式ストーブに関しては、煙突付けるのが前提の寒冷地用ストーブばかりだったな。つまり従来のポット式ストーブは排気が汚いという課題があったということだね。

ただ、ポット式で青炎を作る技術はトヨトミによるものではなく、従来からあったようだ。これはポットの灯油ポタポタのところで直接灯油を燃やしてしまうのではなく、そこでのヒーターは灯油をガス化させることにとどめ、それに空気を混ぜて、ポット上部の助燃装置で予混合燃焼させるというやり方。ただし、点火・消火時に燃焼のバランスが崩れるので、やはり排気が悪く、煙突が必要という課題は残ったまま。

で、トヨトミはどうしたかというと、下記のようにしたと。ちょっと元ページの画像は番号ばかりで見にくいので、主要なものに名前を付けてみた。
ポット式石油燃焼器の構造

この画像の下の方にある給油パイプと点火ヒーターは、ポンプ式の基本的な機構なのでまあいいだろう。灯油を垂らして、それを点火ヒーターで温めると。ただ、細かい記載はないのだが、読む限りはここで火を作るというよりは、あくまで灯油をガス化させ、空気を混ぜて混合気を作るのが、このポット下部での主な役割であり、燃焼の主体はポット中部にある助燃装置のようである。この部分で混合気を予混合燃焼させ、完全燃焼の青炎を作るというわけだ。

で、ここまではそれ以前の技術でもあったのだが、トヨトミの場合は、その助燃装置の上に気化皿を用意して、そっちにも送油管から灯油を垂らし、こっちは黄炎の拡散燃焼をさせるとのこと。これにより一次燃焼と二次燃焼を発生させて、火力に応じて一次燃焼だけのときと、一次燃焼、二次燃焼両方を使う時を使い分けることで、火力の幅を持たせるとともに、点火時、消火時の不完全燃焼をなくすことに成功したとのこと。


ちょっと私自身も、何度も読み込んだ上でも完全に理解できたわけではないのだが、ポイントとして、

・従来のポット式ストーブは拡散燃焼の黄炎で排気が汚いので煙突が必要になる
・それを改良したものとして、ポット下部では混合気を作って、上部の助燃装置で青炎の予混合燃焼をさせるものができた
・さらにトヨトミが改良した本特許では、助燃装置の更に上に拡散燃焼をさせる気化皿と送油管を置き、一次燃焼だけでなく、二次燃焼もさせることで、火力の調整幅を増やし、排気も綺麗にすることで、ファンヒーターとしてポット式機構を使うことに成功した

ということではないかと思う。ちなみにトヨトミの石油ファンヒーターの排気は、主要3社の中で一番きれいなことが、国民生活センターの検証により示されている。下記を参照。
石油ファンヒーターによる室内空気汚染 - n-20071005_1(PDF)