暖房器具の強さと暖房費・電気代と暖房効率を徹底比較した結果まとめ

どの暖房器具を選ぶのか、エアコンにするのか、石油ストーブにするのか、ガスファンヒーターにするのか、もしくはオイルヒーターや遠赤外線ヒーターにするのかを判断するのに必要な項目をここにまとめておこうと思う。

まず、暖房を比較する際に、注意しなければならないのは、電気代や暖房費をどれが一番節約できるのかという単純な省エネ観点だけで見てはいけないということ。極端な例として、1時間で1円しか掛からないけれども全然暖かくならない暖房と、1時間で1000円掛かるが部屋が完全に暖まる暖房は、どちらがよい暖房と言えるだろうか?ほとんどの人からすれば、どっちも嫌だろう。

これがよくある暖房を比較しているサイトにありがちな間違いで、単純に1時間あたりの電気代や暖房費で暖房器具を比較してはいけないのである。たとえ1時間に1円しか電気代が掛からなくても、部屋が全く暖まらなければ何の意味もないのである。

暖房を比較する際には、いかに早く部屋を暖められるかという暖房の強さも考慮する必要があるし、暖房効率を考えたいなら、1時間あたりの暖房費ではなく、1円当たりの熱量を計算する必要があるのだ。以上を踏まえてこのページでは各暖房の比較を行っていくつもりである。


暖房の強さと暖房効率のポジショニングマップ

まずは結論から書いて、詳細を説明していくスタンスを取ろうと思う。暖房器具の比較に関しては、上記の暖房の強さと暖房効率のポジショニングマップで表現ができる。早く部屋を暖めることができる暖房が欲しい人は、ポジショニングマップの上の方にある暖房器具を選ぶのが良くて、暖房効率・省エネを重視したい人は右の方にある暖房器具を選ぶのがよい。

結論としては即暖性の高い強力な暖房が欲しい人はガスファンヒーターや石油ファンヒーターを、コストパフォーマンスの高い省エネ暖房が欲しい人はエアコンを使うのがベストの選択肢となる。また、オイルヒーターやセラミックヒーター等、電気抵抗を使ったヒーターに関しては暖房としての出力も低く、暖房効率も最悪なので、室内のメイン暖房にはなり得ないことがわかるであろう。

なお暖房の強さに関しては、同じ種類の暖房でもより広い部屋用のものを使うことで、出力を上げることは可能(電気ヒーター系を除く)であるが、ここでは一般家庭によくあるような楽天やアマゾンなどで一番売れ筋の機種の暖房出力で比較を行った。その方が使用者の肌感に合うと考えたからであり、上記すべての暖房を経験した私自身の暖房の強さに対する感覚とも一致している。

上記ポジショニングマップを表にしたものも下記に示しておこう。1時間の暖房費は暖房の発する熱量によって変わるので、省エネ性能を見たいなら暖房効率で考えたほうがよいのだが、単純に暖房費がいくら掛かるのかを計算するには1時間あたりの暖房費の数字はあったほうが便利なので、それも付記しておこうと思う。それぞれ定格出力時(標準運転時)の数値で出しているので、部屋が一度暖まってしまえば、記載のものより電気代は安くなると考えて良いだろう。

暖房名 暖房の強さ
(kW)
暖房効率
(kW/円)
1時間の暖房費
(円/時間)
電気使用量
(W)
ガスファンヒーター(都市ガス) 4.07 325 45.10 17
ガスファンヒーター(プロパン) 3.85 168 82.39 17
石油ファンヒーター 3.2 353 32.66 98
石油ストーブ 2.24 386 20.87 0
エアコン 2.2 581 13.63 470
オイルヒーター 1.5 124 43.50 1500
セラミックヒーター 1.2 124 34.80 1200

上記表は、デフォルトでは暖房の強さ順になっているが、並べ替え可能なので、並べ替えて見たい人は、各項目のヘッダー部分をクリックしてみるとよいかと。なお、電気使用量に関しては、ガス暖房や石油暖房の中にも電気を使用しているものがあり、またエアコンのように消費電力と電気使用量が一致していない電気暖房もあるため、追加情報として記載をしている。これらも暖房効率や暖房費の計算には組み込んである。

なお、計算に必要な情報は下記にまとめたが、長いので興味のある方だけが見ればよいかと。
暖房器具の強さと暖房費・電気代と暖房効率の計算に必要な情報まとめ

以上、結論をご紹介したので、以下ではその詳細について説明をしていくことにする。


暖房の強さの見方と電気ヒーター系暖房が最弱な理由

上記の暖房に関するポジショニングマップで、ガスファンヒーターや石油ファンヒーターが暖房能力が高く、オイルヒーター、セラミックヒーター(電熱線ヒーターや遠赤外線ヒーター、ダイソンの7万円くらいする電気ファンヒーターなども同様)は暖房能力が低いことがわかったが、この「暖房の強さ」に関して、まずは説明をしようと思う。

現在の暖房機器では、暖房能力の高さをkW(キロワット)という単位で表示をしている。ワットというと電力をイメージする方が多いと思うが、ここで使っているワットは熱量の単位のワットだ。熱量の単位のワットは、1秒あたり1J(ジュール)の熱を発している状態を表している。

もうちょっとイメージしやすい表現を使うなら、1秒あたり1gの水を約0.239度上げる熱量がW(ワット)で、1秒あたり1kg(1Lでも同じこと)の水を約0.239度上げる熱量がkW(キロワット)である。丸々この熱量を水に伝えることができるなら、0度の水を約7分で沸かす(100度にする)ことができる熱量ということになる。

さて、エアコンを除く電気暖房、ガス暖房、石油暖房に関しては、燃料の消費量に応じただけの熱量を発生させることができる仕組みになっている。例えば電気ヒーターは、1200Wの消費電力では1200Wの熱(電気抵抗によるジュール熱)を発生させることができ、灯油を使った暖房なら1Lの消費で36.49MJの熱量を発生させ、都市ガスを使った暖房は1m3の使用で45MJの熱量、プロパンガスなら1m3の使用で99MJの熱量を発生させるという具合だ。

なので、暖房機器に書かれている暖房出力というのは、つまり燃料の消費能力のことなのである。暖房出力が倍のファンヒーターは、ガスや石油も単純に2倍消費しているということだ。

そう考えると、電気ヒーター系暖房の暖房出力が最弱な理由も見えてくるだろう。一般家庭の電気機器は、通常1500W(1.5kW)までしか使用することができないのだ。一方ガスや石油を使った暖房は、弱いものでも2kW以上の暖房出力があり、業務用なら20kW近くの熱量が出せるものもあるので、電気暖房とガス・石油暖房では暖房出力の上限がまるで異なるのである。


電気暖房でも電熱ヒーターを使わないエアコンの暖房効率が最強な理由

上記でエアコンを除く電気・ガス・石油を使った暖房は、基本的に燃料消費量と同じだけの熱量を発することができると書いた。じゃあエアコンはどうなんだというのがここでの話題。実は暖房機器の中で、唯一エアコンだけは消費電力よりも多くの熱量を供給することができるのである。それがエアコンが暖房効率を最強たらしめている理由。

エアコン以外の電気暖房は、電気を流したときの電気抵抗によって熱を発生させている。
ニクロム線を使った電気ストーブや遠赤外線ヒーター、セラミックヒーターやデロンギのオイルヒーター、7万円するダイソンの電気ファンヒーターも、全部上記の画像のような電気抵抗を使ったジュール熱を発生させているという点で、何も変わりはないのである。違うのは熱の拡散のさせ方だけ。

ところが、エアコンに関してはこの仕組みではなく、ヒートポンプというものを使った方法で熱を室内に取り込んでいるので、消費電力よりも大きい熱量を供給することができるのである。ヒートポンプとは何かということについては、私よりもうまく説明できるサイトがいくつもあるので、興味のある方はそちらをご覧いただくのがよいだろう。例えば下記のページなどが詳しくておすすめ。
ヒートポンプとは - 一般財団法人ヒートポンプ・蓄熱センター
一応このページでも簡単にだけ説明しておこう。自転車の空気を入れたことがある人は、空気を入れた時にタイヤが熱くなるという経験をしている人も多いと思うが、空気には圧力を掛けることで温度が上昇するという性質がある。この性質を利用し、室外の空気に電気で圧力を掛けて熱くして、その熱を室内に逃しているというのがヒートポンプの仕組みである。

電気は熱を発生させることに使われるのではなく、空気を圧縮してその熱を室内に拡散することに対して使われるため、暖房のポジショニングマップや暖房比較表で紹介したエアコンの例だと、消費電力の約4.7倍の熱を室内に供給することができるのである。これが、エアコンが他の暖房機器と比べて暖房効率が高い理由である。なお、資源別の1円あたりの熱量等のデータは下記の通り。
基礎データ 単位金額(円) 単位熱量(MJ) 1円あたりの熱量(kJ/円)
灯油価格(配達)(円/18L) 1700 656.8 386.36
電気代(円/kWh) 29 3.6 124.14
都市ガス代(円/m3) 137 45.0 328.47
プロパンガス代(円/m3) 585 99.0 169.23

電気資源を用いた1円あたりの熱量が、他と比べて著しく低いのがわかるであろう。それにも関わらずエアコンの暖房効率が最強なのは、ヒートポンプが熱の供給方法として圧倒的に優れているからである。

なお、エアコンに関してはCOP(Coefficient Of Performance、直訳すると「性能の係数」)という指標があって、これは暖房運転時、室内に熱を持ってくる暖房能力や、冷房運転時、室外に熱を持ってくる冷房能力を消費電力で割ったものである。

今回の暖房比較例として用いたネットでの売れ筋エアコンの例だと、暖房の標準運転時の能力である定格能力が2.2kW(2200W)で、その際の定格消費電力が470Wなので、暖房時のCOPは4.68となる。エアコン以外の電気暖房ではこのCOPは1で固定であるが、エアコンだけはこの数値が1以上になるので、省エネ性能としてこうした数値が用いられたりする。

余談として同様の指標としてAPF(Annual Performance Factor、直訳すると通年の性能係数)という指標もある。こちらは通年の実運用時の冷暖房能力を実消費電力で割った数字である。詳しくは下記を見ると良い。
業務用エアコンのAPF表示について
現在はエアコンのカタログなどで表示されているのは、より実際のデータに近いAPFの値になっている。ただ、この数値は通年を通したものしか公表されておらず、冷房期間だけ、暖房期間だけの能力を評価することができないため、今回の計算では、結果的に当サイトではCOPと同様の計算方法で暖房能力や暖房効率、暖房料金を算出している。


改めて暖房器具の強さと暖房費・電気代と暖房効率を詳細比較

以上の暖房比較に必要な概念の説明を一通り終えたところで、暖房器具の横断的な比較の詳細の話に戻ろう。上記のポジショニングマップはネット上で確認できる各売れ筋の暖房器具をベースにして、暖房の強さと暖房効率をマッピングしたものである。暖房効率は本当は(kJ/円)で表記するのが正しいのだが、いくつも新しい単位を出すと初見の人が見にくいので、カタログ等で表記されることの多いkWを使った単位で記載している。kW=kJ/sと、1秒あたりのkJがkWであるため、数値としては同じになるのであまり気にしなくても良い。

さて、上記の図を見ることで、暖房器具における暖房効率に関しては一目瞭然であろう。エアコン>石油暖房器具>都市ガス暖房器具>プロパンガス暖房器具>エアコンを除く電気暖房器具の順番である。

石油ストーブよりも石油ファンヒーターの方が暖房効率がちょっと落ちるのは、石油ファンヒーターは100W程度の電気を使用するためであり、灯油本来の暖房効率は石油ストーブの方になる。

ガスファンヒーターは都市ガスとプロパンガスで暖房効率が大きく変わることがわかるかと。都市ガスに関しては石油暖房に近しい暖房効率であるが、プロパンガスだと暖房効率最低の電気暖房よりちょっとましという程度の暖房効率にまで落ちてしまう。これはプロパンガスの相場価格が、同じ熱量で比較すると約2倍近くになってしまうことに起因している。プロパンガスの地域でガスファンヒーターを使うのは現実的な選択肢とは言えないことがわかるかと。

最後にオイルヒーターやセラミックヒーターなどのエアコンを除く電気暖房について。図を見てわかるとおり、暖房効率自体は変わらない。これは先に述べたとおり、エアコン以外の電気暖房は消費電力=発生熱量になるためである。オイルヒーターはセラミックヒーターや遠赤外線ヒーターなどのように直接人に熱を伝えないので、全く暖かく感じないのだが、消費電力自体はそれらよりも大きく、結果的に発生熱量もそれらより大きくなっている。

ただ、電気暖房に関しては1500W(1.5kW)の壁があるので、一般家庭ではそれ以上の熱量を発生させることはできない。暖房効率も電気暖房は最低なので、基本的にはトイレや台所などのスポット利用、ホットカーペットやこたつなどの特定部分の暖めには適しているものの、部屋全体を暖めるようなメイン暖房としては使えないというのが電気暖房に関する結論となる。


結論として、暖房の使い方としておすすめなのは、寒い部屋を早く暖めるには、ガスファンヒーターや石油ファンヒーターなどを最初に使い、一度部屋が暖まった後はエアコンで室内温度を維持するのがベストということになる。

もしくは、省エネにこだわる人は、暖房出力の大きいエアコンを買うというのも選択肢になるかもしれない。